「こういうの頼むのめずらしいねえ」
覗き込まれたガラスポットの中で明るい緑が揺らめいている。返事をせずにカップへ注ぐ。つい言葉につられて頼んでしまった。湯気を吸い込みながら口をつける。メニューに書かれていた名を頭の中で唱えながら。リラックス。リラックスハーブティー。本当に?
リラックスできない原因が、こちらの挙動を眺めている。三口飲んでカップを置いた。
「いい匂いする?」
「え? ああ、まあ」
「ふーん。……ちょっといい?」
返事を待たずにするりと伸びてきた両手がカップを持ち去る。きらきらと、閃く水面がその掌を照らす。
「ああ。いい匂い」
細めた眼と頬笑みがそのままカップに近づいて、僕は小さく声を上げたのかも知れない。
「あ、ごめん、飲んじゃだめだった? おいしいねこれ」
「いえ。いいです。あげます」