ちょっと大きい風呂屋に行くと、出張髪切りがいる。
「なんかまた切られちゃったんだけど、どう変わったかもうわかんない」
ひとりごとのような声につられて、しげしげと見れば短くなったということはわかる。変わり映えは、しない。
「……とりあえずその美容師に同情しておきます」
「わたしどうして風呂上がりにいっつもつかまるんだろ」
「あの人達はそれが仕事ですからね」
「君つかまったことある?」
「頼むのは自分からですねえ」
「最近切ってなくない?」
「今刈ってきてもらったんですが」
「えっあっほんとだ後ろが短い、前髪は?」
「あー…もしかしたら後ろだけだったかもですね」
「ん? なんで? 伸ばすの?」
「いや、まあたまたま」
申し訳ないがもうこれ以上時間を掛けたくない、しびれを切らして言ってしまった。無礼な客もいたものだ。それが自分とは。丁寧な髪切りだった。じゃあこのまま整えますよ、と何事もないかのように鋏を動かしていた。前髪はすぐ重くなる。そうしたらまた髪を切るために時間を分けなければいけないのに。落ち着かない。ずっと落ち着かない。